ワインやチーズ、お料理と合わせたり、サンドイッチにしたり。いまや日本の食卓に欠かせない存在となったフランスパン。
バゲット、バタール、ブールなど、フランスパンにはさまざまな種類がありますが、それぞれのパンにはどんな違いがあるのでしょう?
フランスパンの種類と特徴、日本へ伝わった経緯や代表的なつくり方をまとめました。
日本のフランスパンの歴史
じつは、フランスに「フランスパン」という名前のパンはありません。
フランスで「pain(パン)」と呼ばれるのは、小麦粉と水、塩、パン酵母からつくられるシンプルなパンだけ。
砂糖やバターを使うクロワッサンやブリオッシュなどのリッチなパンは、一般的に「ヴィエノワズリー」と呼ばれています。
では、どのような経緯で日本に「フランスパン」という呼び名が広まったのでしょう?
それは明治20年頃のこと。
フランス人神父、ペトロ・レイ師が孤児院の子どもたちの将来を考え、パンづくりの技術を伝えたことが、日本におけるフランスパンの発祥といわれています。
ローマ法王の使者として日本を訪れたペトロ・レイ師は、カトリック教会が運営していた孤児院の子どもたちの手に職をつけてあげようと、孤児のひとり、長尾鉀二さんを当時のフランス領インドシナへ派遣。そこで製パン技術を学ばせました。
本格的なフランスのパンづくりを学んだ長尾さんは帰国後、教会付属の製パン部で仲間たちにパンづくりを伝授。
その後、第一次大戦がはじまって孤児院へのフランスからの援助が途絶えたことから、教会の信者だった高世啓三さんがパン工房の経営を引き継ぎ、東京・文京区関口に「関口フランスパン」を創業しました。
日本における元祖フランスパンの店「関口フランスパン」では、創立130年の伝統を今も守り、変わらぬ製法で本格的なフランスパンを提供し続けています。(「関口フランスパンの歴史」はこちら)
関口フランスパン 目白坂本店
東京都文京区関口2-3-3
03-3943-1665
無休(年末年始休みあり)
平日・土曜 8:00am~6:00pm
日曜・祝日 8:00am~5:00pm
フランスパンの種類と特徴
美食の国フランスでは、小麦粉と水、塩、パン酵母を基本としたシンプルな生地から、大きさや形の異なるさまざまな食事パンがつくられています。
ボリュームや形が変わると、外側の皮(クラスト)と内側の生地(クラム)の割合が変化するため、同じ配合の生地でつくったとしても風味や食感が違ったパンに。
そんな違いが楽しめるのも、フランスパンの魅力ですね。
ここでは、日本のパン屋さんでもよく見かける、おもなフランスパンの種類と特徴をご紹介します。
バゲット
バゲットとは「杖」や「棒」を意味するフランス語。
クラストはパリッと香ばしく、クラムには大小の気泡がランダムに入ってみずみずしい。かむほどに小麦のうまみが広がるバゲットは、フランスパンの代表選手です。
パンの価格が自由化されて以降、フランスでは、法律上のサイズ規定はないようですが、パリ市が毎年、開催している「パリ・バゲットコンクール」では「長さ55〜70cm」「焼き上がり重量250〜300g」などの基準を設けて味、香り、食感のよさなどを競っています。
日本では、食べやすさや持ち運びのしやすさを考えて、長さ40〜50cmに成形するパン屋さんが多いようです。
バタール
バゲットと「ドゥ・リーブル」と呼ばれる約700gのパンの中間の太さのパンということで、バタール(フランス語で「中間」の意味)という名前に。
バゲットと同じ重量の生地を短かめに成形するため、クラムの分量が多く、ソフトな口あたりになります。
パリジャン
「パン・パリジャン(パリのパン)」を略して、日本では「パリジャン」。
重量は500〜600gで、長は70〜80cm。棒状のフランスパンの中ではもっとも長く、バゲットよりもやや太めのパンです。
フィセル
フランス語で「ひも」の意味。重量は150gで、長さはバゲットよりも短かめ。
クラストのカリッとした食感を楽しむパンです。
ブール
フランス語で「ボール」や「丸」を意味する「ブール」。
パン職人「ブーランジェ(Boulanger)」の語源ともなったパンです。
大きさはお店によりさまざまですが、クラストが薄めで、クラムの分量が多いところは共通。ソフトな食感で食べやすく、サンドイッチにも向いています。
シャンピニオン
「きのこ」の意味。丸く成形した生地の上に薄くのばした円形の生地をのせて焼き上げます。
形がかわいく、上にのせた生地の薄焼き煎餅のような食感も楽しいパンです。
フランスパンの代表的なつくり方
現在、日本で広く行われているフランスパンの製法が一般に広く知られるようになったのは、1950年代。
フランス国立製粉学校の教授、レイモン・カルヴェル氏が技術指導のために来日し、日本各地で講習会を行ったことから、本格的なフランスパンづくりの技術が日本のパン屋さんに広まりました。
ここでは、レイモン・カルヴェル氏が日本へ伝えた、3つの製法をご紹介します。
ディレクト法
フランスパンの伝統的な製法のひとつ。
小麦粉、水、塩、パン酵母をいちどにミキシング。3時間ほどフロアタイムをとって生地を発酵させることで、うまみの豊かなパンに仕上げます。ストレート法とも呼ばれます。
パートフェルメンテ法
レイモン・カルヴェル氏が考案した製法。
あらかじめ発酵させた生地(パートフェルメンテ)を加えて仕込むことで発酵時間を短縮。ディレクト法と同様に、風味のよいパンに仕上がります。
オートリーズ法
イースト、塩以外の材料をミキシングしてからしばらく休ませ、その後、残りの材料を加えてこねあげる仕込み方法。
生地に水分がゆきわたってのびやすくなり、ミキシング時間を短縮できます。
レイモン・カルヴェル氏が日本に伝えた製パン技術については、その教えを守り伝えてきた株式会社ドンクが2001年に発行した書籍『ドンクが教える本格派フランスパンと世界のパン作り フランスパン・世界のパン 本格製パン技術』に詳しく記載されています。
フランスパンの歴史から、フランスパンのバリエーションとそのつくり方、ドンクの人気定番パンのつくり方まで、パン好きが知りたいことがぎゅっと詰まった本は、フランスパンの基礎を知りたい方におすすめの一冊です。
カルヴェル氏の薫陶を受けたパン職人さんたちの手によって、日本でもおいしいフランスパンがつくられるようになって60年余り。
現在は、生地を低温でじっくり発酵させてうまみを引き出す「低温長時間発酵法」や、成形した生地を低温で発酵させる「プースラント法」など、さまざまな製法が登場しています。
おいしいフランスパンづくりをめざす、パン屋さんたちの挑戦に、終わりはないのですね。
フランスパンが残ったときの保存法、食べ方
パリッと香ばしく、ふんわり小麦の香りが広がるフランスパン。そのおいしさを味わいたいなら、その日のうちに食べきるのが一番。
でも、どうしても残ってしまうときがありますよね。
そんなときは、薄くスライスしてラップフイルムで包み、さらに冷凍用保存袋に入れて冷凍。
食べるときは、アルミホイルで包んでオーブンンやトースターで5〜8分温めると、焼きたての食感にもどります。
解凍したフランスパンの上に野菜やハム、とけるチーズなど、好みの具材をトッピング。こんがり焼いたタルティーヌもおすすめ。
少し厚めに切ったフランスパンを卵液にじっくり浸けたフレンチトーストも、格別のおいしさです。