2004年に出版されて以来、小さな子どもたちに大人気の『もったいないばあさん』のお話。
ご飯やおかずを食べ残すと、どこからともなく「もったいないばあさん」が現れて、残した食べものを「もったいなーい」とぺろり。
しかも、ほっぺについたごはんまでペロッとなめられてしまいます。
この絵本を読むと、子どもたちはみんな「もったいないばあさん、こわい!」。
でも、だんだん、ものを大事にすることの大切さを学んで、ごはんを残さず食べてくれるようになります。
日本の「もったいない」精神は、「MOTTAINAI」という世界共通の言葉ともなっています。
それは2005年のこと。
環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞したケニア人女性、ワンガリ・マータイさんが来日した際に「もったいない」という日本語に感銘を受け、「MOTTAINAI」の精神を世界に広めようと提唱したのがはじまりでした。
食べものを大切にする「もったいない」精神が息づいているはずの日本。
でも、年間の食品廃棄物は2,759万トンにおよび、このうちまだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス(フードロス)」は643万トンにものぼります。 ※数値は農林水産省及び環境省「平成28年度推計」
まだ食べられるものを無駄に捨ててしまう「食品ロス」。
この「もったいない」をなくしていくためには、どうすればよいのでしょうか。
そこで、まずは2019年10月に施行された「食品ロスの削減の推進に関する法律」の概要をチェック。
パン屋さんでのロス削減への取組み、パンをめぐるフードシェアリングの実例、家庭で実践できる食品ロス削減方法についてまとめてみました。
2019年10月【食品ロスの削減の推進に関する法律】施行
日本では、2000年に「資源有効利用促進法 」など、循環型社会の形成に向けた 6つの法律が制定・改正され、3R(リデュース、リユース、リサイクル) への取組みが事業者の義務に。
以降、さまざまな法整備が進められ、先進諸国で大きな問題となっている「食品ロス」についても、2019年10月1日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」 が施行されました。
「食品ロスの削減の推進に関する法律」では、食品ロスを削減していくための基本的な視点として 下記の2点が明記されています。
①国民各層がそれぞれの立場において主体的にこの課題に取り組み、社会全体として対応していくよう、食べ物を無駄にしない意識の醸成とその定着を図っていくこと。
②まだ食べることができる食品については、廃棄することなく、できるだけ食品として活用するようにしていくこと。
また、基本的な施策としては、次の6項目があげられています。
①消費者、事業者等に対する教育・学習の振興、知識の普及・啓発等
②食品関連事業者等の取組に対する支援
③食品ロスの削減に関し顕著な功績がある者に対する表彰
④食品ロスの実態調査、食品ロスの効果的な削減方法等に関する調査研究
⑤食品ロスの削減についての先進的な取組等の情報の収集・提供
⑥フードバンク活動の支援、フードバンク活動のための食品の提供等に伴って生ずる責任の在り方に関する調査・検討
さらに、「食品ロスの削減の推進に関する法律」の施行を受けて、毎年10月を「食品ロス削減月間」、10月30日を「食品ロス削減の日」 とすることが決定。
2019年の10月には、日本各地でさまざまな「食品ロス削減の日イベント」が開催されました。
膨大な量の食品ロスを減らしていくためには、企業はもちろん、消費者一人ひとりも日常的にロス削減に取り組むことが大切。
ここからは、個人にもできる食品ロス削減方法を紹介していきます。
人気ベーカリー・ツオップの【もったいないツオップ】
「売切れ仕舞いにする」「通販で受注販売する」「残った商品は翌日値引き販売する」「再生活用する」など、街のパン屋さんはさまざまな方法で食品ロスの削減に努めています。
そうした方法のひとつとして、人気店「ツオップ」さんがはじめたのが、残ったパンを通信販売で販売する「Mottainai=M Zopf(もったいないツオップ)」です。
千葉・松戸の人気ベーカリー「パン焼き小屋ツオップ」さん。
同店のオーナー、伊原靖友さんは2000年に実家のパン店を受け継ぐ形で「ツオップ」をオープン。
以来、「お客さまにパンを選ぶ楽しさを感じてほしい」と、閉店時間までたくさんのパンを用意しています。
そのため、パンがかなりの量残ることになり、そのぶんは廃棄せざるを得ない状況に。
そうした現状を改善しようと、伊原さんは2017年に「Mottainai=M Zopf(もったいないツオップ)」をスタートしました。
お店のウエブサイトで、伊原さんは「もったいないツオップ」について、次のように記しています。
Zopfでは、営業時間の最後までお客様にパンを選ぶ楽しみを感じていただけるよう、閉店時間までたくさんのパンを焼き続けています。
そのため閉店後にはかなりのパンが残ってしまいます。
これはお店のコンセプトとしてやっていることで仕方ないと思ってはいても、思いを込めてつくった大切なパンを廃棄してしまうのは心苦しい限りでした。
そこで「フードロスをなるべく減らそう!」そんな想いからMottainai=M Zopfを始めました
ツオップさんの通常の通販ショッピングカートは受付時間が限定されており、1回の募集件数が50名と狭き門。
「もったいないツオップ」は、申込日とショッピングカートの稼働時間が限定されており、次回の実施要項はメルマガで通知するという仕組みです。
しかも、残ったパンを詰め合わせて発送するので、何がいくつ届くかは開けてみてからのお楽しみ。
受付順に順次発送されるため、到着日は未定で、手元に届くまで数ヶ月かかることもあるとか(1回の申込分1000〜2000件への送付が終了してから次の募集が行われるため、次回の募集時期は未定のようです)。
それでも、家にいながらにして行列の絶えない人気店、ツオップさんのパンを食べることができ、しかも食品ロスの減少に協力できるのですから、お客にとってもこんなにうれしいことはありません。
「ロスパン」をパン好きに届ける【リベイク 】 の試み
ツオップさんの「もったいないツオップ」と同様、「おいしいパンたちが捨てられるのを少しでも減らしたい 」とスタートしたのが 「rebake(リベイク) 」さんの「ロスパン」宅配サービス。
「リベイク」さんは、合同会社クアッガが2018年12月にスタートしたパンのお取り寄せ・通販マーケットです。
「リベイク」さんでは、全国のおいしいパンを遠方の方たちに届ける「お取寄せ販売」と同時に、パンの廃棄を減らし、食品ロスを削減することにつながる「ロスパン宅配」を行っています。
「ロスパン」とは、パン屋さんで残ってしまい、まだ食べられるのに廃棄になってしまうパンのこと。
「ロスパン宅配」は、リベイクさんを通じて全国各地のパン屋さんにロスパンの「事前購入予約」をすることができるシステムです。
「ロスパン宅配」で予約を受けたパン屋さんはロスが出たときに受付順に順次、配送するため、パンがいつ届くかは状況次第。
そのぶん、お得なお値段で購入できるのも、このサービスの特徴のひとつです。
「ロスパン宅配」をはじめるにあたり、リベイクさんでは関東のパン屋さん200店舗弱にヒアリングを実施。
その結果、小規模店舗で数%、中規模以上の店舗では10%以上ロスが出ている店舗があり、それがオーナーの悩みの種となっているとわかったため、「ロスパン宅配」を立ち上げたのだそうです。
「おいしく食べられるパンが捨てられる現状を変えたい」という想いから はじまった「ロスパン宅配」。
「リベイク」さんでは、宅配利用で発生した収益の一部を環境や食糧問題に取り組む団体に寄付しています。
食品ロスの減少に貢献しつつ、全国のこだわりのパン屋さんのおいしいパンをお得なお値段で購入できる、こうしたシステムは、ますます需要が高まっていくのではないでしょうか。
▼「リベイク」さんの「ロスパン」を実際にお取り寄せしてみたレビューはこちら
家庭でできる食品ロス削減方法
日本の年間の食品ロス量600万トン超のうち、約半数は家庭が発生源。
これを日本人1人あたりに換算すると、毎日お茶碗1杯分(140g)の食べものを捨てている計算になります。
つまり、最終的に問題を解決していくためには、私たち一人ひとりが食品ロスの低減に意識的に取り組むことが必要なのです。
家庭で食品を無駄にしない一番のポイントは「つい、うっかり」をなくすこと。
買物や食品保存をする際に、ちょっと気配りするだけで無駄を減らすことができます。
ここでは、消費者庁の啓発用パンフレットに沿って、家庭で簡単にできる食品ロス削減方法をご紹介します。
この方法を実践すれば、出費削減にもつながりそうです。
家庭でできる食品ロス削減方法
買物前に家にある食材をチェック
「家にまだあるのに購入してしまった!」ということがないように、冷蔵庫内をスマホで撮影したり、必要な食材をメモして出かける習慣を。
使う分、食べられる量だけ購入
「安いからとまとめ買いした結果、使わないうちに賞味期限が切れてしまった」では逆効果。必要なぶんだけ買って、食べ切りましょう。
消費期限、賞味期限を確認
「期限切れで廃棄」を避けるために定期的に期限表示を確認。期日の近い食品から使いましょう。
保存は適切に
食品に記載された保存方法に従って、正しく保存しましょう。
食材は上手に使い切る
つくり過ぎた料理はリメイクなどでひと工夫。残っている食材も無駄にしないで使い切りましょう。
食べきれる量を調理
家族の予定や体調、健康に配慮して、食べ切れる量の料理をつくりましょう。
「今日から実践:食品ロス削減:啓発用パンフレット・ポスター/応用編」
まとめ
ここで紹介した以外にも、廃棄されそうな食品をユーザーにお得な価格で販売するさまざまなフードシェアリングサービスが各地で誕生。
食品の製造工程で発生した規格外の廃棄商品を福祉施設などへ無償で提供する「フードバンク」活動も広がりを見せています。
食品ロスは、単に食品が無駄になるだけでなく、ゴミとして処理するために燃料が使われ、その処理費用として税金が使われているのも大きな問題。
こうしたロスをなくすためにも、個人個人の小さな努力が大切です。
「もったいないことをしない生活」はきっと、地球環境だけでなく、ともに暮らす人や地域、社会にとっても優しいものになるはず。
これから、自分たちに何ができるか。
日本に根ざした「もったいない」の精神で、改めて暮らしを見直してみませんか?