日本の大手製粉会社が製造している小麦粉は業務用だけでも数百種類。日本ではなぜ、これほど多くの銘柄がつくられるようになったのでしょう。
そもそも、フランスのバゲット、アメリカのプルマン・ブレッド(角食パン)、イタリアのフォカッチャなど、パンを主食とする国ではそれぞれの土地でとれる小麦にもっとも合うパンが発展し、食文化として根づいてきました。これに対し、もともとパン食文化が存在していなかった日本では、明治維新後にイギリスからパンがもたらされて以来、各国のパンをとり入れながら、あんパン、カレーパンなど、独自のパンが考案されてきました。
パンの種類が増えるにつれ、本場と同じ味のパンをつくるための粉や、より風味のよい粉を求めるニーズが高まってきたことから、製粉会社ではこうした声に応えるために、さまざまなタイプの小麦粉を開発。多くの種類の小麦粉が製造されるようになりました。
では、現在、パン用小麦粉にはどのような小麦が使われ、どのような目安で分類されているのでしょう。改めて、その特徴を見てみましょう。
小麦には硬質、軟質、中間質がある
小麦には、粒の内部が緻密で硬い硬質小麦と、粉状で柔らかい軟質小麦、両者の中間的な中間質小麦があり、粒が硬いほどパンの骨格をつくるグルテンを形成する力が強くなります。
そのため、グルテンの力を必要とするパン用にはおもに硬質小麦が使われています。
現在、日本で消費されている小麦のほとんどはアメリカ、カナダ、オーストラリアなどから輸入された外国産小麦で、小麦の自給率は12%に過ぎません。
輸入小麦のうち、パン用の小麦はカナダから輸入している「カナダ・ウエスタン・レッド・スプリング」やアメリカの「ハード・レッド・スプリング」など、たんぱく含有量が13%以上でグルテンの力が強い北米産硬質小麦が中心。
フランスパン用粉にはフランス産の中間質小麦、準硬質小麦も利用されています。
日本で栽培される小麦は、たんぱく含有量の少ない中間質、軟質が中心でしたが、今では「春よ恋」「ゆめちから」をはじめとする、製パン性の高い硬質小麦の品種が多数登場しています。
強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉の違いとは?
日本では長らく、たんぱくの含有量の多いものから「強力粉」「準強力粉」「中力粉」「薄力粉」とする分類法が一般的でした。
日本には小麦粉に関して国が定めた公的な規格はなく、粉のもつグルテンの力を知るのに便利だったことから、これまで流通・販売の便宜上、たんぱく含有量による分類法が慣例とされてきたのです。
しかし、最近では多くの製粉会社が、この分類法に代わり、「パン用」「フランスパン用」「めん用」「菓子用」といった、使用用途による分類法を採用しています。
その背景には、粉の多様化が進み、これまでの分類方法では、小麦粉の性質を伝えるのが難しくなってきたという事情があります。
たとえば、たんぱく質含有量のみで分類した場合、フランスパン用粉や中華麺用粉、そばつなぎ用粉は、すべて準強力粉に分類されることになりますが、これらはそれぞれの用途に合わせて、たんぱくやでんぷん、灰分などの質と量を調整した、まったく性質の異なる粉です。
用途別の分類は、それぞれの粉の特性を利用者に理解してもらうために考えられた方法なのです。
最近は、用途別の分類ではカテゴライズしにくい製品が増えてきていることもあり、、バゲットやクロワッサン向きの「フランスパン用粉」と、それ以外の粉を総称する「パン用粉」という分類法を採用している製粉会社が多いようです。