春になると、産卵のために大挙して北海道沿岸にやってくることから「春告魚」とも呼ばれる「にしん」。
そして、春から初夏にかけて芽吹き、爽やかな香りを漂わせる山椒。
春が旬のふたつの食材が出会って、えも言われぬおいしさを生み出す「にしんの山椒漬け」は、福島・会津に伝わる郷土料理のひとつ。
山椒が新芽を茂らせる頃にしかつくれない、季節のごちそうです。
今回は、「にしんの山椒漬け」の歴史とおすすめの食べ方、木の芽時につくる我が家の「にしんの山椒漬け」レシピをご紹介します。
「にしんの山椒漬け」の歴史
「にしんの山椒漬け」は、にしんの干物「身欠きにしん」と山椒の葉を交互に重ね、醤油や酢で漬け込んだ保存食。
四方を山に囲まれた会津盆地では新鮮な魚介を手に入れることが困難だったことから、江戸時代に長期保存のきく身欠きにしんを使った「にしんの山椒漬け」がつくられるようになったと言われています。
江戸時代、にしんが大量に獲れた北海道では、水揚げされたにしんを身欠きにしんに加工し、北前船で本州へと運んでいました。
その道中、新潟の湊に到着した身欠きにしんは、行商人たちの背におわれて会津の地へ。
峻険な山々を越えて届けられた身欠きにしんは、冷蔵技術のなかった時代、内陸に住む人々の貴重なたんぱく源となっていました。
しかし、長期保存用にしっかりと干されたにしんには独特のにおいがあり、しかも柔らかくもどしたあとはそう長くはもちません。
そこで考案されたのが、香りが爽やかで防腐効果がある山椒の葉を加えて漬け込む調理法です。
にしんを山椒とともに漬け込む方法が広まると、やがて田植えやお祭りでふるまわれる郷土の味に。
その伝統は今に受け継がれ、会津では山椒が青々と繁る頃になると毎年、「にしんの山椒漬け」がつくられ、食卓をにぎわしています。
「にしんの山椒漬け」のおすすめの食べ方
かつては、新芽の季節にしか食べられなかった「にしんの山椒漬け」ですが、加工技術が進んだ今では一年中味わうことができるようになりました。
今回は、会津の醸造元・会津高砂屋さんの「にしんの山椒漬け」を使って、おすすめの食べ方をご紹介します。
にしんと山椒の葉を重ね合わせて酸味のきいた醤油だれに漬け込む、昔ながらのつくり方で仕込まれた「にしんの山椒漬け」はお酒にぴったり。
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袋から出してそのまま食べやすく切るだけでも美味ですが、にしんを薄くスライスして塩もみしたキュウリやミョウガと合えれば、お酒によく合う爽やかな一品に。
両面をさっとフライパンであぶると身がふっくらとして、ごはんのおともにもぴったりです。
にしんのうまみに漬けだれの程よい酸味とこく、山椒のスパイシーな香りが加わった「にしんの山椒漬け」。
最後は、軽く身をほぐしてあたたかいごはんにのせ、お漬物を添えて〆ごはん。
お茶漬けにすると、さらさらと何杯でもいただけてしまいます。
「にしんの山椒漬け」のレシピ
我が家でも、庭の山椒が芽吹くと毎年、「にしんの山椒漬け」をつくります。
そのつくり方はいたってシンプル。
簡単でおいしい「にしんの山椒漬け」。青葉の頃にぜひ、お試しください。
材料(つくりやすい分量)
・身欠きにしん(八分乾) 500g
・山椒の葉 ボウル1杯程度
・醤油 1カップ
・酢 1カップ
・日本酒 1カップ
・みりん 50cc
つくり方
1 身欠きにしんを米のとぎ汁(分量外)に一晩浸けて、もどす。
2 1の頭や尾を落とし、水でよく洗ってうろこや汚れをとる。キッチンペーパーで水けを拭き取る。
3 山椒の葉を水洗いし、水けを拭き取る。
4 四角い密閉容器の底に山椒の葉を敷きつめ、重ならないように2を並べる。
5 4のにしんの上に山椒の葉を敷く。
6 にしん、山椒の葉の順に重ね、表面を山椒の葉で覆う。
7 鍋に醤油、酢、日本酒、みりんを入れて中火にかけ、沸騰直前まで温める。
8 温かいうちに7を6にまわしかける。
9 山椒の葉が浮かないように皿などで表面に蓋をする。
10 粗熱がとれたら密閉容器に蓋をし、冷蔵庫に入れて保存する。
身欠きにしんには、かちかちに乾燥した「本乾」、本乾ほど硬くない「八分乾」、一夜干しで柔らかい「ソフト」があります。
本来は「本乾」を使うところですが、もどすのに時間がかかり食感も固くなるため、我が家では「八分乾」を使用しています。
また、我が家のレシピは甘みがかなり控えめ。殺菌効果を考えて漬けだれは温かいうちに注いでいます。
たれに砂糖を加えたり、加熱せずに漬け込んだりと、つくり方は家庭によりさまざま。材料や分量、手順はお好みに合わせて調整してください。
市販の品のしっかりと濃い味わいもなかなかですが、家族の好みに合わせてつくった「にしんの山椒漬け」はまた格別。
たれに漬け込んでから3、4日で食べられるようになりますが、1週間ほどして味がなじむとさらに味わい深くなります。
「にしんの山椒漬け」は必ず冷蔵庫で保存。長くおくと味が落ちてきますので3週間以内には食べきるのがよいようです。